特 許
(1) 特許制度の基礎知識
1. 特許制度とは
現代では、日々新しいものが開発されて、世の中の役に立っています。これらの技術開発によって生まれた発明は、発明者の血と汗の結晶です。その発明が、見ず知らずの他人に勝手に真似されていたらどうでしょうか?
制度により適切に保護されなければ、発明者は自分の発明を他人に盗まれないように、秘密にしておこうとするでしょう。しかしそれでは、発明者自身もそれを有効に利用することができないばかりでなく、他の人が同じものを発明しようとして無駄な研究、投資をすることになってしまいます。
そこで、特許制度を設けて、発明者に発明を独占的に利用することを認める一方で、その代わりにその発明を公表して、それをヒントに新たな技術開発を促進するようにしました。
現代では必要不可欠となった携帯電話も、多くの発明によって小型で便利なものとなりました。まさに、特許制度は日本の経済成長を支えている柱の一つと言えます。
特許制度のしくみ
特許制度は、新しく有用な技術を、決められた手続きによって公表した人に対して特許権という権利を付与します。特許権は、公表した技術を独占的に利用することができる権利です。
他の人は、公表された技術を無断でビジネスに利用することは許されません。
その一方、他の人は、公表された技術を参考にして新たな技術を開発することができます。
また、公表された技術をビジネスに利用したい場合、特許権を持っている人から許諾を得ることで利用することができます。
このように、特許制度の目的は、特許権を持っている人と他の人との間に調和を求めつつ技術の進歩を図り、産業の発達に寄与していくものです。
2. 特許権の必要性
特許権を取得するためには多額の費用がかかります。 当然ながら費用対効果を考える必要があります。特許権を取得すべきかどうかは、例えば次のようなチェックポイントによって見極めます。
特許権取得のポイント
1 第三者が特許発明を実施しているかどうか発見できるか
2 対象の特許権によって市場を独占できるか
3 他社とのライセンス交渉に活用できるか
4 資金調達に貢献できるか
5 販売力の強化につながるか
しかし、このような判断には時間が必要です。そこで、特許制度は特許庁の審査を受けるかどうかについて出願から3年間の猶予を与えています。これによって、3年後に改めて特許権が必要かどうかを判断することができます。
なお、出願するだけでも一定のメリットがあります。特許出願をすると、原則として1年6か月後に出願書類が公開されます。公開された技術については、先に出願されていない限り第三者に特許権が取得されることはないので、自らの実施が制限されることを回避することができます。
3. 特許権の効力
特許権は、特許庁の審査によって特許すべきものと認められ、かつ特許料を納付することによって発生します。特許権は、特許料を毎年納付することで、出願してから原則として20年まで維持することができます。
特許権者は、自らがその発明を実施できるだけでなく、第三者がビジネスとしてその発明を実施することを排除することができます。
但し、次のような場合には特許権の効力が及びません。
特許権の効力が及ばない場合
1.家庭で個人的に実施する場合
2.試験または研究のために実施する場合
3.単に日本国内を通過するに過ぎない船舶若しくは航空機又はこれらに使用する機械等
4.出願の時から日本国内にある物
5.医薬の発明について医師等が行う調剤行為
4. 特許の取得要件
発明は、以下に示す特許要件を満たす場合には特許を受けることができます。
(1) 産業上利用することができること
特許を受けることができる発明は、産業上利用することができなければなりません。これは、ただ単に学術的・実験的にしか利用できない発明は、保護することが適当ではないからです。特許法における産業は、工業、鉱業、農業などの生産業だけでなく、サービス業や運輸業などの生産を伴わない産業も含めた広い意味での産業を意味します。
(2) 新規性があること
特許を受けることができる発明は、今までにない新しいもの(新規性があるもの)でなければなりません。これは、特許制度が新規な発明の公開の代償として特許権を付与するというものだからです。新規性を有しない発明は以下のように定められています。
1.特許出願前に日本国内又は外国において公然と知られた発明
例:テレビ、学会等による発表
2.特許出願前に日本国内又は外国において公然と実施をされた発明
例:製品販売、公開実験等
3.特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明や電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明
例:特許公報、書籍、インターネット等に掲載
なお、上記のうち、学会での発表、博覧会への出展等により、その新規性を失ったものについて、例外的に救済を受けられる場合があります。しかし、この例外的な救済を受けるためには、公表した日から6月以内に救済を受けたい旨の書面とともに特許出願をしなければならないほか、特許出願の日から30日以内に公表等の事実を証明する書面を提出しなければなりません。また、日本で救済されたとしても外国では救済されない場合があります。従って、適切に権利を確保するためにも、発表する前にまずは出願することを考えて下さい。
(3) 進歩性があること
すでに知られている発明から誰でも容易にできる発明(進歩性がない発明)については、特許を受けることができません。技術の進歩に貢献しない発明には特許権を与えるほどの価値がないし、容易に思いつく発明にまで特許権が認められるようになると、日常的に行われている技術的な改良についても特許をとられてしまうことになり産業の発達を阻害するからです。進歩性があるかどうかの判断は、その分野の専門家からみて、その発明に至る考え方の道筋が容易であるかどうかで判断します。
(4) 最先の出願であること
別々の発明者が同じ発明を同時期に特許出願する場合があります。この場合、先に発明をした者ではなく、先に出願した者に特許が与えられます。このように、同一の発明について、先に他人に出願されてしまうと特許を受けることができなくなりますから、発明をしたらできるだけ早く出願することが大切です。
(5) その他
その他、公序良俗に反しないこと、出願書類の記載に不備がないことなどが必要です。